50歳からの初体験④
『「製本」に挑戦!』
歳を重ねると、「初めて」って減っていきますよね。でも、世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるのも事実。そこでbjbでは、大人になって歳を重ねた今だからこそ、初めて体験するのにおすすめの“モノ・コト”をご紹介していきます。
新しい習いごとや趣味として始めるもよし、一度だけ体験してみるもよし。人生100年時代を過ごしていく日々の中で、楽しみの一つとなるきっかけになれば嬉しいです。
(bjb編集部)
若い頃に憧れていた“やりたいこと”と再会!
「新たにこんなことをしたい!」という気持ちが薄れている昨今。そんなある日、新聞記事を見てハッとしました。
「工芸製本展が開催されます」というお知らせでした。
20代の頃、本が好きで(読むのが好きというのもありましたが、形態としての本好き)、ブックデザイナーの先駆けともいえる栃折久美子さんの本「モロッコ革の本」「製本工房から」の2冊を入手。
結婚後10回以上の引っ越しを経た今も、なぜか手元に置いてあります。
「製本にチャレンジしてみたい!」。そう思ったとたんワクワクしてきました。
早速、開催中の製本展へ。
製本とは簡単に言うと「原稿や印刷物などを綴じ合わせて1冊の本の形にすること」。電子書籍に移り変わっているこの時代に逆行しているのかもしれませんが、一点物の本はどれも興味深いものでした。
主催されていたのは製本職人のヒラヤマトモコさん。福岡県内の公立図書館で司書をしていたときに「傷んだ本を自分で修理したい」との思いから、司書を辞め、東京の製本工房で基礎を習得し、さらに本場フランスに留学。3年間の修行の後、2016年に福岡市内で工房「1F右」を開いたそうです。
不器用な私でもできるだろうか、そんな不安もありましたが、優しく丁寧に説明してくれるヒラヤマさんと話していたら、「まずはやってみたい」という思いがつのり、昔から憧れていた製本に挑戦することに!
本の構造を知ることが大事
住宅街にあるこぢんまりとした工房に足を踏み入れた途端、「わ~!」と思わず声を上げてしまいました。そこには製本に必要な道具が両側に配置され、独特の世界が広がっていたのです。
1回目の体験は「文庫本のハードカバー仕立て直し」。製本の工程を知る意味でも大切な作業です。
①持参した文庫本のカバーをはずしたら、ハードカバーに仕立て直すための材料、クロス(外側を覆う布や用紙)、見返し(外側をめくった時に見える用紙)、花布(はなぎれ、“天”〔本を立てたときに上に見える切り口〕と“地”〔下側の切り口〕の部分から少し見えるもの)、しおりをセレクトします。
今回は私の好きな緑色を基調にシンプルなものを選びました。
②「見返しを貼る」作業。見返しは表紙と中身を繋ぎ合わせる意味で貼る紙です。中身より一回り大きな用紙を中表に折って貼り、余分をカットします。
③次は本の強度を保つための「背固め」。背の部分に寒冷紗(かんれいしゃ・荒く織った布)+花布+しおり+和紙を糊付けします。
④続いて「表紙貼り」。ここが今回一番苦労したところです。
まず、改めて中身の寸法を正確に測ります。この寸法を基に平ボール(本の表紙・背表紙に相当する厚紙)の大きさを決め、カッターでサイズ通りカットします。厚みのあるボール紙のカットがなかなか難しい。力の入れ具合が分からず、しかも自分のカットする時の癖があって、真っ直ぐきれいに切れません。先生は上手く切れている時は音で分かると言われていました。
左右の平ボールをカットしたら、背にあたる部分の背ボールをカットして準備OK。寸法通りカットしたクロスの上に平ボール2枚、背ボールを貼り、
余分なクロスをボールに合わせて折り込んで糊付けしたら表紙の完成です。
⑤次は出来た表紙を中身に取り付ける「くるみ」という作業。背ボールと溝にボンドをつけ、中身をくるみます。
⑥この後の「溝付け」は表紙と中身を接着するために背表紙と平(表紙と裏表紙)の間に圧力をかけて溝をつける作業です。ここはイチョウゴテという先が丸くなったイチョウ型のコテで押さえます。
⑦見返しと表紙を合体させる「見返し糊入れ」を終えたら、プレス機で「仮締め」を行います。
⑧あふれた糊をふき取る「風入れ」をしたら本日の工程は終了。約3時間の作業でした。
⑨後は「仕上げ締め」をすれば完成です。
家に帰ったら、平らなものに挟み、1リットルのペットボトルなどの重しをして一晩置きます。
完成した本はこれまでの“単なる好きな文庫本”、とは違った愛着を感じる、大切な1冊となりました。
オリジナル作品を制作!
「文庫本のハード仕立て」を体験して製本の難しさと面白さに触れた後、自分なりの物を作ってみたいと思って挑戦してみました。
2回の講習で完成したのがこの一冊です。
好きな韓紙と製本用クロスを使った「継ぎ表紙」を使って表紙を仕立てました。
中身は、ここ数年通っている「ハングルPOP(ハングルをいろいろな書体で描く)教室」で作成した韓国のことわざや詩などハガキ大サイズが13枚収まるものです。
一冊にまとめることでいつも手元に置いて眺められますし、何よりいい記念になりました。
製本についての考え方は先生によって異なるようですが、ヒラヤマさんは「生活の中で使えるものにも活用して欲しい」という方針なので、アトリエに通っているみなさんは伝統的な製本以外にも、孫の成長アルバム、趣味の写真を集めたアルバム、俳句集、自分史など、作りたいものを作っているそうです。中身の綴じ方には本かがり、中綴じ、平綴じなどがあり、作るものによって最も適切な綴じ方を教えていただきながら、中身を作り、それにふさわしい表紙を制作するスタイルです。
私もいろいろ作ってみたいものが浮かんできました。
取材協力:製本工房「1F右」
福岡市南区大楠3-16-3
TEL:092-519-2506
お問い合わせ:1fmigi.seihon@gmail.com
受講料:要問合せ
お近くの製本教室は、「製本教室 エリア名」で検索すると探せます。興味をもたれた方は、ぜひ挑戦してみてくださいね。
取材・文/ノン鳥越
1954年福岡生まれ。小6より結婚するまで東京で過ごし、大学卒業後出版社に就職するも、転勤族の夫と共に、宮城、山形、鹿児島、岡山など、全国を転々。福岡に戻り、フリーライターになって26年。現在は週1で1人暮らしの92歳の母宅と、双子を含む3人の子育てをする娘宅を訪問するのがルーティン。