声さえ出れば、動けなくても人を楽しませられる
下を向かずに出会いや偶然を楽しみたい!

堀江淳さんインタビュー

透明感のある歌声と中性的なルックスで一世を風靡した、堀江淳さんのデビュー曲『メモリーグラス』は、若いアーティストが今なお次々とカバーする名曲。堀江さん自身もアーティストへの楽曲提供やライブなどの音楽活動のほか、生涯、情報発信ができるような環境づくりもしているそう。デビューまでの道のりや『メモリーグラス』の誕生秘話、そして年齢を重ねてからの友だち作りのコツまでお伺いしました。
オーディション、そしてデビューまでの待機期間が幸せだった
高校卒業後、どうしても音楽をやりたくて、でも東京に行くほどの勇気はなくて…。生まれ育った苫小牧から札幌に出ました。昼はライブハウスで歌い、夜はパブでアルバイトをしていた時、CBSソニー(当時)の新人発掘オーディションの予選が北海道でも開かれることを知ったんです。
この第一回SDオーディションの北海道地区で選ばれたのが『ペガサスの朝』の五十嵐浩晃さんと僕の2人。彼の方が年上だったこともあり、先にデビューするということで、僕は1年半札幌で待機することになりました。
この期間が最高に幸せで楽しい時間でね。だってデビューが決まっているんだから、ウキウキですよ(笑)。レコード会社の人が送ってくれるレコードなどを聞いて、いろいろと勉強しました。



出し惜しみせず、狙ってつくったヒット曲。誕生の裏側
その後、所属事務所も決まって東京に来て、事務所のあった広尾の交差点で信号待ちをしていた時のこと。「♪水割りをください〜涙の数だけ」という歌詞とメロディが、突然降りてきたんです。強烈な印象とインパクトのあるフレーズだったので、「絶対にヒットする曲を作る」と決心し、作り溜めておいた他の曲からもいいフレーズを集めて、『メモリーグラス』を作りました。
「♪ゆらり〜ゆらめいて」のBメロは、違う曲から持ってきた部分。いいとこ取りをして、3曲を合体させた末のヒット曲でした。この3曲をそのまま一曲ずつにして売り出しても、きっと売れなかった。出し惜しみせず、1点集中で作った曲だったからこそだと思います。

ちなみに普段、ウィスキーは水割りで?
僕ね、水割りは飲まないんですよ(笑)。
札幌時代のアルバイト先のパブで、毎日「水割りをください」と注文は受けてましたけど。
あの当時は女性視点の歌を男性が歌うのも珍しくなかったので、歌詞は女性の立場で書きました。本当は自分で歌いたくなかったけど…。腹を括って、ちょっと裏返りそうな歌い方にするなど工夫しました。
まだあまりテレビに出ていない頃、ラジオ番組のスタジオに行ったら、「堀江淳は男か女か」という質問に、男女同数くらいのハガキが届いたことがありました(笑)。少し狙っていたとはいえ、ちょっとショックだったなぁ。



当時の歌番組で思い出深いできごとは?
『メモリーグラス』のレコーディングが終わって、スタジオで音を確認した時、自分がベストテンで「今週の第3位です!」って紹介されている映像が見えたんですよ。結局、最高で3位までしか行かなかったので、「第1位」を想像してればよかったな(笑)。
当時はアイドル全盛時代で、例えば松任谷由美さんや松山千春さんのようにアーティストとして活動している人は歌番組にはあまり出なかった。僕もシンガーソングライターとして活動していたし、事務所の意向もあって、スタジオで歌ったのは数えるほどでした。
その代わり、中継と称して電車の車両基地や山梨のぶどう園など、「え?ここで?」と思うような関係のない場所で歌った記憶があります。デラウェアの早食いチャンピオンがぶどうの早食いをした後で、「それではメモリーグラスです」なんて紹介されたりして(笑)。

びっくりしたのは、一度番組内でスニーカーの話をしたら、事務所に山ほどスニーカーが届いたこと。当時は、レコードの歌詞の隅っことかに身長や靴のサイズなども書いてありましたから、皆さん送ってくれたんですよね。
ソングライターとしての現在の活動
その後はソングライターとして高木澪さんやジェロさん、中森明菜さんなどのアーティストに楽曲提供をしています。僕は先に曲を作って、後から歌詞を考えるタイプですが、言いたいことを決まった字数でおさめるのは本当に苦労します。
作家のように物語として歌詞を作る人もいますが、僕はどちらかというと内面を吐露するタイプ。人には言えないようなカッコ悪いことを書くと、不思議とヒットするのは、聴き手が「よくぞ言ってくれた」と共感してくれるからかな。比喩もよく使いますけど、これも捻り出すのが結構大変で…。いい表現が見つかった時は嬉しくてね。「俺って天才!!」と思います。その高揚感が次の曲作りのモチベーションになっていますね。


テレビ出演でカラオケリクエストが倍増!?
ありがたいことに、JUJUさんやMs.OOJAさん、演歌歌手の吉幾三さん、新浜レオンくんも『メモリーグラス』をカバーしてくれていますし、親がファンという今の若い世代の方たちから声をかけられることもあります。
時々テレビのオファーが来ますが、それもなるべく断らずに出演するようにしているんです。それは僕を見ると、みなさんの頭の中にある膨大な数の楽曲の中から、『メモリーグラス』を思い出してくれるから。実際、僕がテレビに出演すると、その翌日からカラオケでのリクエストがグンと伸びると、JASRACの人からお礼を言われたこともあります。
デビューから44年経っても、『メモリーグラス』は歌ってくれる人も思い出してくれる人もいるので幸せです。大切にしたい一曲ですね。

人生100年時代、新しい友だちがどんどん増える楽しさ
コロナでライブ活動が全面的にできなくなり、自宅からの配信やTikTokも始めました。コミュニティFMでのラジオ番組など、大好きな「おしゃべり」を続けていくために健康な体、特に声帯を大切にしていきたいと思っています。もし動けなくなっても、声さえ出れば発信はできますから。

ライブハウスでの活動も月1〜2回ですが継続していて、全国各地の人たちと交流したり、気分転換にプチ観光も楽しんでいます。
この年齢になってから友だちもどんどん増えているんですよ。この前もライブ会場で姫乃樹リカさんと山口いずみさんがいらして、いずみさんは『メモリーグラス』をカバーしてくださったご縁もあったので、自分から挨拶に行きました。僕は躊躇なく自分から自己紹介しに行くタイプで、そのせいか年齢に関係なく新しい飲み友だちやコミュニティが生まれますね。
チャンスは下を向いていたら逃す
僕ね、山手線内で友だちに偶然会ったり、娘婿に遭遇したり、とにかく偶然が多いんですよ。これは僕が特殊なんじゃなくて、皆、気づいてないだけだと思うんです。
今はどこでもスマホを見て、下を向いてるでしょう。これだと知り合いが近くにいても、絶対にわからない。これってチャンスも同じで、下ばかり見ていたら気付けないんじゃないかな。もっと上を向いて周囲を見て、何か面白いことがないかと探した方が、発見があって楽しいと思います。


INFORMATION
[bjbCOLLECTION2025 Jun.]6月28日(土)、29日(日)開催
29日(日)に堀江淳さんが出演決定!
名曲「メモリーグラス」を歌ってくださる他、つちやかおりさんと楽しいトークもしていただきます。
他にもバブル時代から今も第一線で活躍する人気芸能人が会場を盛り上げます!
ぜひご参加ください。
<入場・観覧は無料です>
※要事前お申し込み
イベントの詳細&チケットのお申し込みはこちらから!
撮影/矢部ひとみ
文/元井朋子