人生後半、今は楽しいことだらけ。
自分のやりたいことに突き進むのみ!
麻倉未稀さんインタビュー
歌番組の全盛期にCMソングでデビューし、大ヒットドラマの主題歌で一世を風靡。57歳の時に番組で乳がんが発覚。すべてをオープンにして乗り越え、現在はがんに関わる啓発活動もされています。愛情に溢れていて、とにかくかっこいい歌手の麻倉未稀さんに、デビュー当時のこと、現在、これからのことを語っていただきました。
麻倉未稀さん
1960年大阪府生まれ。1981年にCMソング『ミスティ・トワイライト』でデビュー。TVドラマ『スクール・ウォーズ』『スチュワーデス物語』の主題歌「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」「WHAT A FEELING~フラッシュダンス」が大ヒットし一躍有名に。2017年に乳がんが発覚し、全摘手術を受けるも奇跡的な回復力でステージに復帰。音楽活動を続けながら、乳がんの啓発運動にも積極的に力を注いでいる。
今だから話せるけど、当時はリアルタイムでドラマは見てません(笑)
デビュー当時は歌番組が全盛期でしたが、私の場合は大人っぽい曲が多かったので、そのイメージを守るためにもTVにはあまり出ないようにしていたんです。なぜって、しゃべると大人っぽくないことがバレちゃうから(笑)。だから歌番組に出演するのは、トークなし、生で歌うときだけ。TV出演は慣れていなかったから緊張しっぱなしでしたね。
年間3枚のアルバム制作とコンサートをこなしていたので、家にはほとんど帰れないほど忙しい毎日でした。
視聴率20%超えのドラマの主題歌を歌っておきながら、実はそのドラマをリアルタイムで見ることができなかったという(笑)。なんと、再放送でようやく見れたんですよ!
なぜかモデルをしていた姉が撮影現場に通っていたようで、「ご本人はいついらっしゃるんだろう?」と噂されていたそうです(笑)。
ドラマの監督さんや共演者の方々とお会いしたのも、ドラマが終わって随分後になってからのこと。それくらい、当時はとにかく忙しかったです。
仕事ばかりでバブル期の実感がないんです。
当時は仕事がずっと詰まっていて、遊びにいくこともなかったので、“華やかなバブルを経験した”という感覚がないんです。ただ、打上げの帰り道にタクシーがなかなか拾えなかったり、PVの撮影にいい音と映像を求めて海外で撮影したり。今思えば、華やかな時代だったんだなと思いますね。
番組で発覚したまさかの乳がん。この時に支えとなったのは…
ある番組の企画で健康診断を受けたところ、乳がんが発覚したんですけど、最初に直面したのが、「公表するかしないか」という問題。公表することによって仕事がバッサリ無くなるんじゃないかとか、もう歌えなくなるんじゃないかとか、色々考えて悩みました。
でも、『HERO』の、「命よりも重い夢を~」という歌詞にあるように、みんなに頑張れって応援する歌を歌い続けてきた私が、がんになったから頑張らないでどうするんだ?と。
この先、どんなリスクが待っているかわからないけれど、それはさておき、同じ日に同じ時間に、私と同じようにがんの宣告を受けて苦しんでいる人はきっといるはず。そんな方たちに、一緒に頑張ろうね、というメッセージを届けたい。そんな思いから、すぐに公表することを決意しました。電車で移動中の40分足らずで決めたことなんですけどね(笑)。
でも『HERO』という曲を歌っていなかったら、公表していなかったと思います。この曲に背中を押してもらいましたね。
私だからこそできる、がんに関わる啓発活動を開始
乳がんの告知は6年前のことですが、病院探し、治療法など、調べても調べても、なかなか自分のほしい情報が出てこなくて…。そこで、がんの正しい情報を必要としている人にきちんと届けられるようにしたい、という思いから、地元の神奈川県藤沢で「ピンクリボンふじさわ」を立ち上げ、乳ガン検診の啓発活動を始めました。これまでの人生で、歌以外にやりたいと思ったのは初めてのこと(笑)。もう、これは自分の使命だと思っています。
そして、私だからこそできることはやはり音楽なので、イベントでいろんな方たちとのコラボを実現しながら、がん検診の大切さなどについてもお伝えしています。
人生後半、とにかく楽しいことしかやりません!
人生100年時代、ちょうど後半にさしかかったところですが、自分が楽しい!と思うことをとことん楽しもうと思っています。
これからも、歌えるところまで歌い続けていきたいですし、『HERO』などの曲は、私がカバーしたように、私以外のたくさんの方にも歌っていただけたら嬉しいな、と。時代が変わっても、世代を超えてひとつの曲が歌い継がれていくって、やっぱり素敵なことだなぁ、と今改めて思うんです。
乳がんになったことをきっかけに始めたがんに関わる啓発活動も、これからも二足のわらじで続けていきたいです。
そして、やはり健康であることこそが、人生を最後まで楽しめるってことなのかなと思います。忙しい毎日の中でも、体と向き合ったり、健康診断やがん検診を定期的に受けたり。自分の体のこともちょっとずつ大切にしながら、人生を楽しんでいきたいですね。
撮影/清水温子
取材・文/門司智子