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登山は身体と心の健康を整える
体験から分かった登山のイロハと
自分流の楽しみ方

日本一と言われる長野県涸沢の錦秋

登山は、趣味でありレジャーでもあり、さらにスポーツとしての要素や自己鍛錬的な側面も兼ね備えた奥深いもの。経験を重ねるにつれ楽しみも深まり、山での創意工夫は人生の糧になります。

登山初心者の筆者は、すでに低山に3回登っているので、「次のステップにチャレンジしよう」と、滋賀県大津市にある1,214mの武奈ヶ岳(ぶながたけ)へ、登山ガイドの平加知也(ひらかともや)さんと一緒に登ってきました。そこで、平加さんに教えてもらった登山のイロハをご紹介していきたいと思います。

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[準備編]

日頃からできるトレーニングはありますか?

「登山のトレーニングは登山で、といわれていますが、あえていえば『登山体操』があります。考案者は、登山の運動生理学とトレーニング学が専門の鹿屋体育大学山本正嘉先生と、振付師で有名な近藤良平さんです。」

「ひとつひとつの体操が登山する時の動きになっていて、筋力強化とともに、山で転びそうになった時の身のこなしや体の柔軟性などを総合的に改善する目的で作られたそうです。

他にも、例えばウォーキング、スクワットなどを日頃から行い、少しずつ強度を上げつつ継続していけば、登山トレーニングとしての効果が見込めるかもしれません。」

一般的な日帰り登山で必要な装備や衣類について教えてください。

「登山では適切な装備が整っていることがとても大事です。本やネットで調べても情報量が多く迷うと思うので、登山用品専門店のスタッフに、予算や今後の登山計画などを伝えた上で相談すれば、今の自分に最適なものを選び出してアドバイスしてくれますよ。」

□日帰り登山の基本的な装備

・レインウェア上下(防水透湿素材)
・ヘッドライト
・充電済みのスマホ
・登山靴(行先と登山道の状況に応じた適切なものを。新品は必ず試し履きをすること)
・ザック(25ℓ程度)
・ザックカバー(ザックは防水でないため)
・トレッキングポール(ストック。膝の痛みや太ももの筋肉痛、疲労軽減に有効)
・スタッフバッグ(細かな物を役割別に仕分けでき防水性もある袋。ジップロックでも可)
・水筒(保温機能もあれば便利)
・軽食(ようかんなど行動中に口にできる栄養価の高いもの)
・レスキューシート(緊急時に低体温を防ぐためのアルミ蒸着シート。100均でも入手可)
・携帯トイレ(100均でも入手可)
・その他(地図、コンパス、時計、現金、保険証、サングラス、マスク、除菌グッズ、ビニール袋、タオル、ティッシュ、日焼け止め、常備薬など)

「登山用の衣類には様々な機能があります。素材の特性を理解して選び、レイヤリング(重ね着)し、状況によって脱ぎ着して調整します。汗冷え対策は季節を問わず必要なので、インナー選びも大切です。」

□衣服類

・ドライインナー(速乾性があるポリエステルなど。綿素材は汗冷えの原因になるのでNG)
・ベースレイヤー(夏は速乾性があるポリエステル、冬は保温性があるウールなど)
・ミドルレイヤー(保温着。長袖シャツやフリースなど、季節・天候・山域に応じて)
・防寒着(保温力が高いダウンなど。食事や休憩の時に便利)
・アウター(防水透湿素材のものなど。レインウェアで代用も可)
・パンツ(速乾性があるポリエステルなど季節に応じて生地の厚さを選ぶ。伸縮性があるものがよい)
・手袋(防寒または怪我と汚れ防止用)
・靴下(吸汗速乾で登山用のクッション性があるもの。綿はNG)
・帽子(日差しや怪我からの頭部の保護に。季節や状況に応じて選ぶ)
・スパッツ(ゲイター。パンツの汚れ防止や砂利の侵入を防ぐ)
・機能性タイツ(疲労の軽減や膝のサポートに役立つ)
・着替え(雨天時などに備えて)

【登山スタイル例~夏・初秋の場合~】

・blue iceのザック
・吸汗速乾のアームカバー
・高機能なメッシュタイプのドライインナー
・ベースレイヤーの半袖TシャツとパンツはFinetrack
・右胸元には水分補給しやすいようにソフトフラスクという水の入った柔らかいボトル

自分の登山レベルと、登る山の状態で適切な装備を選び、それらを使いこなす技術を一緒に身につけていくと、ますます登山が楽しくなりそうです。

準備ができたら山探し!

私が山探しをしながら気付いた、初心者でも気軽に楽しめる山選びのポイントは以下です。

・標高差(登山口と最高点の高低差)が少ない山。例えば、標高差500m前後だと歩行時間は往復3~4時間が目安
・ロープウェイやリフトなどが利用できる山
・ある程度の標高まで自動車で行ける山
・観光・紅葉・歴史・温泉など自分の目的や楽しみとセットで選べる山

初夏の尾瀬ヶ原
全山紅葉が有名な東北の名峰・栗駒山

登ってみたい山の候補はあるのですが、どのように下調べをすればいいのでしょうか?

・ガイドブックや登山雑誌、ネットで登山情報を確認
・昭文社などが発行している登山地図で行程・時間を確認
 (もしくは自治体や地元山岳会などが公表しているコースガイドでも可)
・YAMAP、ヤマレコなどから直近の登山道の情報を確認

「上記などは、初心者の方でも簡単に調べられます。どのような山に、どのルートで、季節はいつ登るのかなど、まずは調べること、知ることがとても大事です。一方で、誰かの登山レポートを参考に、その通りにやってみようとしても、その登山者と自分では経験値・体力・技術・装備も違うので、同じようにはできないことも留意しておいた方がいいでしょう。

せっかく登山を始めるなら、地形図からより具体的な山情報を読み取る”読図”の勉強も面白いと思います。読図は、講習会でも学べます。」

[実践編]

私は、標高差500m前後、歩行時間3~4時間の登山を3回経験しているので、今回は、標高差1,000m前後、歩行時間6時間以上の山にチャレンジしました。

滋賀県大津市の琵琶湖西側に位置する武奈ヶ岳(ぶながたけ)(標高1,214m)です。山頂からの景色が素晴らしく、気持ちの良い稜線歩きもでき、春は桜、夏は深緑、秋は紅葉、冬は樹氷と年間を通して楽しめる人気の山です。歩行と休憩を合わせて7時間ほど要しました。

~歩くポイントは、一定のペースで、とにかくゆっくり歩くこと~

登山口に着いたら、ストレッチ、筋肉をほぐすなど軽く準備運動をして出発です。平加さんに従って、登山開始から最初の20分くらいは、体を慣らすため、特に意識してゆっくり歩きました。驚いたのは、ゆっくり、のスピード感です。普段歩くスピードの半分くらいの感覚でしょうか。無駄な体力を使わないためにも、1時間あたり標高300m上がるペースです。さらに、平加さんのアドバイス通り、足裏全体を地面につけ、軸足と踏み出す足の重心移動を意識しながら歩き続けてみました。

~60~90分歩いたら休憩をとる~

歩き始めてから20分後くらいに1分ほどひと休みをし、靴紐を結び直すなど調子を整え、その後は、60~90分歩いたら10分ほどの休憩をとるペースで進みました。休憩回数は少なく、時間は短く、歩行のペースが乱れないように、立ったままで休憩を取ったり、こまめに水分や行動食をとったりしました。休憩時や歩行中に、地図や登山アプリなどで、今どのあたりを歩いているのか、進むルートの確認をしました。

★onepoint★ 持参する水の量は?

目安は、体重(kg) × 行動時間(h) × 5 = 必要な水の量(ml)です。これに、予備でペットボトル1本分を用意しました。荷物の重さ、気温、発汗量などによって調整します。

★onepoint★ 行動食とは?

消費したエネルギーを補給するため、30~60分おきに細かく分けてとるのが行動食です。例えば、ブドウ糖が豊富なラムネ、梅干し、ドライフルーツなどがおすすめです。ポイントは、塩分やカロリーがあってコンパクトに手軽に食べられることです。

オリジナルmixラムネ

~食事では炭水化物を効率よくとる~

登山のような有酸素運動では、炭水化物と脂肪が中心的なエネルギー源になるので、朝食ではいつもより多めに炭水化物をとりました。

登山中に補うべきカロリー数も水の計算式と同じで、体重(kg) × 行動時間(h) × 5= 必要なカロリー(kcal)で大まかに計算できます。

例えば、体重50kgの人が行動時間5時間の場合、50(kg)×5(h)×5=1,250(kcal)となります。平加さんによれば、登山に慣れてくると、昼食をとらず行動食のみになるそうですが、山頂でゆっくり昼食をとるのも登山の楽しみのひとつです。保温効果の高い水筒に熱々のお湯を入れ、インスタント麺やコーヒーを手軽に楽しむ人もいます。ただし、行動食をこまめにとっていれば、梅干し入りのおにぎりひとつでもちょうどいいようです。ちなみに私は、枝豆入りのおこわを持参しました。

「自分好みの食事メニューでいいのですが、登山は普段より消耗するカロリーが多いので、しっかり食べないとすぐに疲れてしまいます。糖質、脂肪、タンパク質のうち、最も素早くエネルギーとして使えるのは糖質です。効率のいいエネルギーのとりかたは、炭水化物を中心に、その上で、筋肉の疲労を助けるタンパク質や脂肪をとり、ビタミンなどもバランスよくとることを意識しましょう。登山を重ねるごとに、自分に必要な水分量、食事量や食事メニューの調整もできるようになっていきます。」

膝や腰の負担を軽くする歩き方はありますか?

「トレッキングポール(ストック)は、歩行時の体のバランスをとり加重を腕にも分散できるので、足への負担を減らしたり、登るときに推進力を発揮したりなど、使用することで様々なメリットがあります。ただし、ストックの握り方や前足が着地する前にストックを地面に置くなど、コツと慣れが必要です。

その他、サポートタイツの使用もオススメです。それ以外にも、特に下山時は、一歩で降りる段差をできるだけ小さくすれば、膝への衝撃を和らげるだけでなく、筋肉の疲労も抑えられます。また、体の真正面に足を降ろすのは筋肉への負担が大きいので、体を斜めに向けて、体の横に足を降ろすようにすると、より楽になります。それでも、登山時に膝が痛くなった場合は、足への衝撃を軽くするために段差の小さい場所を選ぶ、歩幅を狭くゆっくり歩く、をより意識していくと少しは楽になります。」

~登山を終えての感想~

登山を重ねるごとに新しい発見が増えていきます。おそらく、登山の装備や技術に関してもこれが正解、というのはないのかもしれません。試行錯誤しながら登山を重ね、自分なりのスタイルを作り上げていくことも登山の楽しみのひとつなのではないでしょうか。そして、自分が成長した、という達成感がやみつきになり、また登山するために、日ごろからの身体づくりも意識するようになります。

さらに、ガイドさんと一緒に登ると色々な知識を教えてもらえ、山の魅力をより深く理解することにつながります。今回の登山で少し自信を付けた私の次の目標は、山小屋宿泊や山の中の秘境温泉に辿り着くことです。

山小屋の窓から見える山景色

平加知也(ひらか ともや)さん

大阪府出身 日本山岳ガイド協会公認登山ガイド  

「初登山がいつだったか分らない程の山好きの家庭で育った根っからの山好き。クライミングやトレイルランニングも好きだけど、一番は地元六甲の地図にない道を辿ることです」

平加さんの登山記録はこちらからご覧ください。
YAMAP

取材・文/宇田美和

東京で住宅・カメラ・育児・暮らしの編集や広告営業などを経てフリーランスに。インド在住時は日本人向け情報誌の創刊に関わり、現在はキャンプ・サウナ・庭づくりにはまっています。

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