子育てが一段落して、
里子を迎えるという選択
大手企業を早期退職し、夫婦で、専業ママのための託児所「マミースマイル」を2007年に設立。男女2人の子どもが就職・大学進学で家を出た今、養育里親として里子を迎えて暮らしている雁瀬さんご夫婦に、里子を迎えるに至った経緯や心境、今の生活、今後の生き方についてお聞きしました。
お話を伺ったのは…
雁瀬(がんせ)浩久さん(57才)・暁子さん(58才)
里子を迎えるに至った経緯を教えてください。
(暁子さん)
私たちが住む市で「こども家庭支援センター」の取り組みの一環として、里親ショートステイ事業を行っていることを知り、説明会に参加したのがきっかけです。話を聞くと、子どもを3日から1週間ほど自宅で預かりお世話をする制度、ということで、自分たちが経営している託児所で宿泊をさせるようなものだと思って。実際、海外出張時に数日間、託児所で預かってもらえないかと相談を受けたこともあったので、これはやらなければ!という使命感もありました。
里親になるには研修を受け、その後、児童相談所と私たち家族との面談、家庭訪問や収入状況の調査などいくつか細かい審査がありました。私たちは、研修を受けて認定されるまでに約1年かかりました。
ショートステイでお預かりすることもありますが、現在は期限が決まっていない里子ちゃんを預かっています。
里親の話を聞いた時、どう思われましたか。
またお子さんたちの反応は?
(浩久さん)
私自身も保育士として普段から子どもたちの面倒を見ているので、その延長だなと思ったくらいです。特に反対する理由もないですし、やっぱり子どもは可愛い。「どうぞ、どうぞ」といった感じでした。
(暁子さん)
当時、娘が高校3年生、息子が高校2年生。里親の話をした時は「別にいいよ」くらいの反応でした。ただ、実際に里子ちゃんが来たのがその1年後だったので、娘はもう大学進学で家にはおらず、家には高校3年生の息子だけでした。ある日息子が学校から帰宅すると突然赤ちゃんがいたので、ビックリしていました(笑)。どうやらしっかりと話を聞いていなかったようで。改めて話すと驚いていましたね。
それは驚きますよね。今育てていらっしゃる里子ちゃんのことを教えてください。
(暁子さん)
生後5日から預かって、現在3才になる子です。今年の4月に幼稚園に入園しました。生活ぶりは至って普通で、里子だからといって特別扱いすることもなく、自分の子ども同様に育てています。公園で仲良くなったママ友に里子ちゃんだと話しても、そう驚かれることはないですし。もちろん幼稚園の先生にもきちんと事情はお話ししています。今のところ、これといって困ったことはありません。
生後5日目からですか!大変なことはなかったですか?
(浩久さん)
生後5日で産院からそのまま我が家へ来ました。自分は年齢からなのか、夜中に何度か起きたり朝早く目が覚めたりするので(笑)、夜中のおむつ替えやミルクを与えることも全然苦にならなくて。
実は、自分の子どもが生まれた頃は仕事に追われていて、全く子育てに関わることができなかったので、その時間を今取り戻している気分です。赤ちゃんって“パワースポット”ですよ!そばにいるだけで元気をもらえます。
(暁子さん)
高校3年生だった息子は受験勉強の合間に「赤ちゃんって癒されるな~」なんて言って顔を見に来たり、抱っこしたりしていました。今は他県の大学に行っていますが夏休みなどで帰省した時に、赤ちゃんの頃と同じように抱っこしようとすると、里子ちゃんのほうが人見知りしてしまって、息子は寂しそうです(笑)。逆に当時家にいなかった娘にはすぐになついて、帰った後もずっと「ねぇね」の話をしていたりしますね。娘も「家族写真撮ろうよ」と言ったりして、もうまったく普通の家族です。
実子を育てるのと何ら変わりはないと話す雁瀬さん夫婦。お子さんたちの理解もあり楽しく子育てをされている様子が目に浮かびます。しかし一緒に生活するにあたって、実際のところ不安はないのでしょうか。
長く一緒に生活するとなると、育て方(しつけ)や金銭面も気になりますが。
(浩久さん)
里子ちゃんの生活にかかる食費、日用品、衣服代、また里親手当など諸々合わせて毎月手当が出ます。私たちが手出しすることはほとんどないので、金銭面で困ることはありません。子育てに関しては、我が子だったら「なんでできないの?」と怒るところが、冷静に客観的に見られて、逆に育てやすい面があるかもしれません。それに一度子育てをした経験から、“今はできなくてもいずれできるようになる”など、気持ちに余裕があるのも大きいと思います。孫だと遠慮もあり、あまり子育てに口出しできないじゃないですか。だから「実子と孫の中間」という言葉がピッタリかな。
話を聞く限り、とてもいい制度ですね。
でもまだ里親制度についてあまり知られてないようですが…。
(浩久さん)
海外では里子を連れている光景は特に珍しくないですし、必要とされている子がいる限り、日本でももっと広がってほしいですね。特にbjb世代の男性は、子どもが生まれた頃、会社で重要な仕事を任せられる時期と重なりがちです。自分もそうでしたが、積極的に子育てに参加できなかった人も多いと思うんですよ。時間に余裕ができた今、赤ちゃんのお世話全般に関わることができ、改めて子育てを経験できてありがたいし楽しいです。子育ては男女ともに人生において貴重な体験だと思います。
(暁子さん)
例えば、子どもの部活の試合を一生懸命応援したり、ご飯やお弁当は手作りにこだわったりと、子ども中心の生活をしていたお母さんが、子育てが終わった途端、抜け殻のようになることもありますよね。そうやって必死に子育てしてきたお母さんって子育てのプロだと思うんです。そういう人こそ里親は、ピッタリだと思います。先日、親御さんの仕事の都合で、小学生と中学生のきょうだいをショートステイで預かりましたが、親戚の子どもが泊まりに来た感覚で、お互い楽しく過ごせましたよ。
今後の人生はどのように考えていらっしゃいますか?
(浩久さん)
もしこの子(今の里子ちゃん)がこの家を離れることになったとしても、また別の里子ちゃんを迎えたいですね。今まで家に子どもがいなかった時期がないんですよ。だから夫婦二人の生活が想像できない。二人とも子どもが大好きだし、元気でいる限りはずっと里子ちゃんを預かりたいと思っています。自分がオムツになっても子どものオムツを変えるつもり(笑)。
(暁子さん)
里子が実親のことを知る権利はあるので、いつか本当のことを話す時がやってくると思います。この先どうなるか分かりませんが、里子ちゃんを預かることは子どもだけでなく親御さんを助けることにも繋がります。自分の子どもが育った今、改めてまた子育てをするのは、体力的に大変なこともありますが、とても楽しく、自分自身が若返ります。過去の子育て経験を活かして余裕を持って育てられるので、里子ちゃんにとってもいいのではないかと私は思います。
里親制度について
https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/nf-kodomokatei
取材協力/マミースマイル
子育て中の母親の負担を軽減し、笑顔になれる環境を提供するため、一時保育事業も行う。趣味や習い事、上の子の学校行事など、リフレッシュしたい時や困った時に預かってもらえると喜びの声も多い。
取材・文/リーナ
1977年福岡生まれ。JR客室乗務員として九州を巡り、出版社に転職。温泉レジャー情報誌の編集部として、1年間で温泉100湯入浴を達成。結婚を機にフリーとなり、様々なジャンルを編集&執筆。趣味はヨガ。