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僕とバイクと、くらもちふさこ
~RZ250と過ごしたバブル期~

少女漫画を読んで
ちょっぴり気になったこと

僕は昔、某バイク情報誌の編集長をやっていました。当時は朝から晩まで、バイクまみれの日々。もちろんプライベートも同様。今から20年以上も前の話です。

その業界に入る前の20代半ばの頃、当時の職場の女性から「バイクに乗ってるんですか?」と聞かれたことがあります。その問いに「はい。くらもちふさこの『いろはにこんぺいと』に出てくる達ちゃんのバイクと同じヤツですよ」と答えたら、何とも微妙な顔をされてしまいました。

そりゃそうですよね。職場の男性に何気なく投げかけた社交辞令から、いきなり少女漫画の話を返されたら誰だって引きます。でも当時、女性にバイクの説明をするにはくらもち先生か、紡木たく先生の作品を引用するのが、漫画好きの僕には手っ取り早いと思えたのです。

ちなみに、当時僕が乗っていたのは、ヤマハの「RZ250」というバイクです。こんなやつ。

写真の日付は「90年8月」とあるので、写っている僕は二十歳です。

このRZ250はバブル期を駆け抜けた名車。デビューは1980年ですが、その後長く愛され、タマ数もいっぱい出たので、街でも峠でも、とにかく目にすることが多かったバイクです。僕も街乗りをはじめ、峠を攻めたり、ロングツーリングに使ったり。良き相棒として付き合い、20年ほど乗り続けました。


で、少女漫画の話に戻るのですが、バブル期には名作が多く世に出ました。ただ、バイクや車の描写は雑だった! 主人公を襲う暴走族がオフロード車に乗っていたり(オフ車乗りに暴走族はいない)、資料無しで描かれたとしか思えない斬新な空想バイクがあったりで、がっかりさせられることも多かったのですが、その中でパーフェクトだったのがくらもち先生でした。

バイク好きをも唸らせる
くらもち作品の数々

ここで注釈。なんで僕が少女漫画好きなのかというと、単に2才年上の姉の影響があったから。暇な時に、姉が持っている「りぼん」や「別マ」「花とゆめ」などを読み漁っていたのです。おかげで、まわりの友人が筋肉ヒーローや江戸っ子巡査の漫画に夢中になっていた頃、ちょっと違う楽しさを知ることができました。萩尾望都、槇村さとる、小椋冬美、青池保子、山岸涼子、美内すずえ…一番好きだったのがくらもちふさこ先生です。

くらもち先生の漫画は、とにかく深い。そして面白い。絵の上手さはもちろんコマの割り方、人物のいきいきとした描写、予定調和で終わらないストーリー、シンプルなセリフに込められた心の動きなど、何もかもが衝撃でした。

そしてディテールにも手を抜かないのがくらもち先生の凄いところです。前述の通り、当時の少女漫画には「こんなバイク存在しないよ~」という雑な描写が多く見られました。しかし、くらもち作品では、やんちゃっ気のある男性は「RZ250」、都会のプレイボーイは「VT250」、不良っぽい少年は「z400GP」と、使い分けまでされていたのです。

さらに、登場人物のセリフにも「RZ」や「VT」といった車名が盛り込まれています。バイク好きは自分の愛車を「バイク」とは言わず、車名で呼ぶのです。その辺を分かっていらっしゃる。さすがです。


この“バイク愛”で負けないのが、紡木たく先生。10代のリアルを描いた名作が多くありますが、バブル世代には懐かしいのが、映画化もされた『ホットロード』です。

この作品で春山が乗っていたのが「CBR400F」。今でも一定の層に支持されているバブル期の名車ですね。そして、先輩から譲り受けるのが「CB400FOUR」。これを春山に“ヨンフォア”と呼ばせるところがニクイ。バイク好きはこうしたスラングを結構使います。代表的なのはゼッツー(Z2)とかペケジェイ(XJ)とかで、他にもザリ、ゴキ、ヤカン、クジラ、東京タワー…などなど。バイク好き以外には全く意味不明だと思いますが。

紡木先生の作品は不良っぽい子が出てくるものも多いですが、みんな不器用だけど純粋。会話とか仕草とか、一つひとつがデリケートに描かれているので好きです。ホットロードの最終回は涙が出ました。

そんなこんなでバイク好きが高じて頭が変になり、一時期はオートバイ情報誌の編集長なんぞやっていた僕ですが、今は普通の50代です。ちなみに、冒頭で「バイクに乗ってるんですか」と質問した女性は、今僕の目の前で、僕が淹れたコーヒーを美味しそうに飲んでいます。共に暮らして22年、RZと過ごした年月を超えました。今日も少女漫画談義に花が咲きます。

文/元・バイク情報誌編集長、フリーライター Ubebe

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