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50歳からの初体験①
『座禅を体験してみよう』


歳を重ねると、「初めて」って減っていきますよね。でも、世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるのも事実。そこでbjbでは、大人になって歳を重ねた今だからこそ、初めて体験するのにおすすめの“モノ・コト”をご紹介していきます。
新しい習いごとや趣味として始めるもよし、一度だけ体験してみるもよし。人生100年時代を過ごしていく日々の中で、楽しみの一つとなるきっかけになれば嬉しいです。
(bjb編集部)


『坐禅を体験してみよう』

あぐらのように足を組み、姿勢を正し、心静かにひたすら座す。仏教の修行の一つでもあるこの「坐禅」がここ数年、国内外を問わず、静かなブームのようです。

iPhoneを生み出した、故・ティーブ・ジョブズ氏をはじめ、海外のセレブ達も実践しているとか。しかも、禅宗のお寺を中心に、坐禅体験ができるスポットも増えているようです。

興味はあるものの「なんだかきつそう」「厳しそう」「一人でも参加できるのかしら」といった不安、疑問を持たれる方も少なくないはず。そんな方々を代表して、人生B面に差し掛かったアラフィフライターが体験してきました。

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体験したのは曹洞宗の「興宗寺」。現在はコロナ渦により中断していますが、毎月第1日曜の7時30分から約1時間、坐禅会を行っており、20~80代の老若男女、多い時には約50人が参加されるそうです。

「『坐禅』とは、お釈迦様が悟りを開かれた姿なのです」と語るのは光吉和美和尚。お釈迦様は静かに木の下に坐して瞑想し、そこで悟りを開いたそうです。

「人間も山や川、草や木などと同様に自然の一部。自然と一体となって座るという思想が、お釈迦様の考えと、私は解釈しています」と光吉和尚。また、「自然の一部である人間は、本来悟っているもの」とも。

「しかし、それに気づかず、いろんな欲望や考えから悩み苦しむ。坐禅によって、それらの苦悩を脱ぎ払い、一旦ゼロの状態にする。生物としてのありのままの姿に戻るのです」。そう光吉和尚はおっしゃいますが、人間だもの、なかなか煩悩はぬぐえませんよね? 

「実は私にも欲はあります(笑)。社会で生きていく中である程度、欲は必要かもしれませんね。でも、ふとしたところで立ち返る。坐禅をしてゼロに戻して、またスタートし、その先でまたゼロに、の繰り返しでもいいのではないかな、と思います」。

なるほど、坐禅=修行のイメージがありましたが、そんなに気負う必要はないかもしれませんね。

「なにはともあれ、まずは座ってみましょう」と、和尚の案内で、坐禅道場へ。

お寺によっては本堂などで行うところもありますが、興宗寺ではこのような坐禅道場で行われています。

まずは丸く高さのある坐禅用の座布団「坐蒲(ざふ)」を用意します。厚手の座布団を二つに折って使うところもあるそうです。

畳のふちに施された木製の部分は浄縁(じょうえん)と呼ばれる神聖なエリア。ここに手足が触れないように、おしりから坐蒲に乗って…、

軽く足を組み、そのままくるっと反転して壁に向き合います。ちなみに曹洞宗は壁に向かって坐禅を組みますが、臨済宗はお互いに向き合って座すスタイルだそうです。

そして、足を組んでお尻、膝の3点で体を支えます。本来は、両足をモモの上に乗せる形「結跏趺坐(けっかふざ)」、または片足だけをのせる「半跏趺坐(はんかふざ)」で組むのが理想なのですが、体の硬い筆者は普通のあぐら、いわゆる「安楽座(あんらくざ)」の形にしました。

「無理や我慢をしてやる必要はありません。体を痛める修行は修行にあらず、ただの自己満足。お釈迦さまもそうおっしゃっています」と光吉和尚。

「まず、上半身を左右にゆっくり揺らして、自分の背骨を意識しながら、真っ直ぐになったところで止めます」

「背中が調ったら両掌を上に向けて、右、左の順で重ね、親指の先を静かに合わせたら、足の付け根に置きます。呼吸はゆっくりと鼻から吸って口から吐く、自然の呼吸で」

「目は閉じず、仏様のような半眼の状態で、視線もやや下に。正しい姿勢で坐禅ができれば体が調う、体が調えば、息も調う、息が調えば、心が調う。この三調(さんちょう)が坐禅の基本です」という和尚のお言葉に従い、三調に励みます。

しかし、初めての坐禅ゆえ、徐々に背も曲がり、やがて睡魔が…。すると、肩を軽くポンポン…。これは、例のアレがくる?「首を左に傾け、少し前かがみになってください」という和尚の指示に従い、形を作ると、警策(きょうさく、またはけいさく)と呼ばれる棒が右肩をパシーン!初心者ということで、軽めでした。

坐禅に集中できない人が自ら手を上げ、警策によって喝を戴くことが多いそうです。

また、一般的に坐禅は前半後半の2回に分けられ、その間に足のしびれを解く、またはリフレッシュを兼ねた「経行(きんひん)」、いわゆる歩く坐禅といわれるものが行われます。

これも各宗派、道場によって異なりますが、興宗寺では両肘を張って組んだ手をみぞおちのあたりに水平に置きながら2分ほど、小さな歩幅でゆっくり歩きます。そして、再び壁に向って坐禅をします。

実は、床に座らない坐禅もあるそうです。その名も「椅子坐禅」。

少し硬めの椅子に浅めに座り、足をしっかりと床に着け、体を支えます。

次に床に座る坐禅と同様に体を左右に揺らして重心を定めて

目は半眼、そしてゆっくり鼻から吸って口で吐くという、三調を心がけて座り続けます。膝や腰が悪い方はもちろん、椅子生活が主となっている現代人にとっても便利、かつ気軽な坐禅方法ですね。このような、楽な姿勢での坐禅も問題ないそうです。無理な体勢で我慢、または痛い思いをするのは、坐禅の目的を妨げるものでもあるとのことです。

今や書籍やネット、さらに動画などで坐禅の仕方をはじめ、さまざまな情報を得ることはできますが、きちんとした三調を体得するためにも、一度、坐禅会に参加するのがおすすめです。

「1人で坐禅するのもいいのですが、皆と共に励ましあって修行する、ということが仏教の教えの中にあり、それはお釈迦様が望んだことでもあるのです。坐禅会を通して友達ができた、という方々も少なくないですね」と光吉和尚。

新たな仲間づくり、出会いの場としても坐禅会は役立っているようです。皆さんのお近くの禅寺でもやっているかもしれません。宗派によってはHPで体験坐禅ができるお寺を紹介しています。未経験の方はもちろん、経験のある方も、人生後半戦に向かって、坐禅でリセットして、調えてみるのもいいですね。

坐禅のできるお寺検索(曹洞宗)

臨済禅 黄檗禅 公式サイト 臨黄ネット

取材協力:興宗寺
福岡県福岡市南区寺塚2-22-11

取材・文/山田誠

1968年生まれ、新潟県出身。20代は東京、30代からは福岡にて国内外の旅行を紹介する情報誌の編集、制作を経て、2003年よりフリーランスに。暮らしやお出かけに関するお仕事が多い中、その取材先で、いただく原稿料以上に物販を購入してしまうことも多々。バブル時代の物欲、いまだ収まらず。

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