一生現役。引退しない生き方
を提案するメディア

“今”を楽しむことを続ければ、きっと素敵な未来につながる

木根尚登さんインタビュー

TM NETWORKのメンバーとして1984年にデビュー。「Get Wild」「SEVEN DAYS WAR」などのヒット曲を次々と生み出し、音楽シーンのど真ん中で活躍してきた木根尚登さん。小説家、俳優など表現の幅を広げてきた木根さんに、バブル期の思い出、結成40周年を目前にしたグループへの思いなどについて語っていただきました。

木根尚登さん

1957年東京都出身。前身バンド「SPEEDWAY」を経て、小室哲哉、宇都宮隆とTM NETWORKを結成し、1984年にデビュー。1989年に小説『CAROL』上梓。1992年からはソロ活動も行っている。

ソロデビュー30周年記念アルバム『キネコレ NAOTO KINE SONGS COLLECTION~』発売中

実は、半信半疑のままスタートした
TM NETWORK

80年代は音楽が大きく進化した時代でした。 僕はもともと吉田拓郎さん、井上陽水さんなどの日本のフォークミュージックが好きで、その後ロックバンド「SPEEEDWAY」を組んでデビューしました。
しかし思うように売れず、どうしようかと悩んでいたときにSPEEDWAYにも参加していた小室哲哉くんから「新しいバンドを一緒にやらない?」と誘われたのがTM NETWORKのはじまりです。
「ドラムとベースはコンピューターの打ち込み。ライブは、そのときいちばん上手い人に演奏してもらう」という彼のアイデアは、当時としてはあまりにも斬新で、最初は理解できませんでした。

しかも僕は、それまで弾いたことがなかったエレキギターを持たされ…。
「弾かなくていいから、ぶらさげといてよ」と言われた話を、後日バラエティ番組で披露したところ、「木根尚登、エアギターだった」とニュースになってしまったことも(笑)。
実際はバッキング・ギターを弾いていたんですけどね。
宇都宮隆くん(ボーカル)も、小室くんに「踊りながら歌って」と言われて、戸惑ってましたね。

「Get Wild」(1987年)でブレイク後も
音楽への向き合い方は変わらず

小室くんが作曲した「My Revolution」(渡辺美里)が大ヒットしたのが1986年。その翌年に「Get Wild」がヒットし、TM NETWORKはようやく軌道に乗り始めました。
とはいえ、急に生活が変わったわけではありません。確かに世の中はバブルまっただ中でしたが、僕らは目の前のレコーディングやツアーで精いっぱい。
美味しいものを食べることにも興味がなく、小室くんの提案で、ライブの打ち上げをファミレスでやったこともありました(笑)。
初めて大阪城ホールでライブをやったとき、小室くんが泊まっていたスイートルームで「僕たち、やっとここまで来たね」と言われたんですが、でも僕自身は、そのときも“売れた”という感覚はなかったですね。

その後も「少し広い部屋に住めるようになった」「車を買えた」という1つずつの積み重ねで。いきなり生活が派手になったわけではないんです。ずっと地道に音楽をやってきたし、お金にも執着がなかったんですよね。それは宇都宮くんも同じで、ヒット曲を連発して、印税が入るようになった小室くんを羨むようなことはなかった。そんな3人だからこそ、今も一緒に音楽をやれているんでしょうね。

転機となった1989年の小説家デビュー
さらにソロ活動もスタート!

その後もTM NETWORKは順調に活動を続けましたが、僕自身はいまひとつ確信を持てずにいました。小室くんは作曲とプロデュース、宇都宮くんはボーカル。僕はどうしたらいいんだろうか、と。
ターニングポイントになったのは、『CAROL(キャロル)』(1989年)という小説を書いたこと。アルバム『CAROL』から着想を得た作品で、音が消えた世界を舞台にした小説です。小室くん、宇都宮くんもSFやファンタジーが好きだったし、僕が小説を書いたことで、3人の世界の共通点ができた。そこからですね、「これが自分の役割。やっと1/3を担えるようになった」と思えたのは。

1992年にはソロ活動もスタート。最高のミュージシャン、最高のスタジオで制作させてもらいました。今の若いミュージシャンには信じられないほど贅沢な環境だったと思います。渡辺美里さんともよく話すんですよ。「あの頃の制作費を少し貯金に回しておけばよかったね」って(笑)。

コロナ禍のライブで感じた
“当たり前”の素晴らしさ

2001年の9・11(アメリカ同時多発テロ)、2011年の3・11(東日本大震災)。21世紀に入ってから信じられないような出来事が起こり、そのたびに「音楽なんてやっていていいのか?」と考えさせられました。
それでも立ち上がり、「少しでも聴いてくださる方の力になれれば」という思いでここまで続けてきました。コロナ禍でライブができなくなったときも、文化庁の意見交換会でライブハウスや劇場の支援を訴えるなど、自分にできることはやってきたつもりです。

2022年にはTM NETWORKの7年ぶりのツアーも開催しました。マスク着用、発声禁止のため歓声はありませんが、そのぶん拍手の温かさがすごく伝わってきて。
“ライブをやる”という当り前のことがこんなにもありがたいことなのかと実感しました。
2020年には“Get Wild退勤”(※)がSNSで流行。それをきっかけにして、当時を知らない若い人たちが僕らのことを知ってくれたのもうれしいですね。
(※「Get Wild」を流しながら退社する)

還暦を過ぎた今、
今日を生きていることに感謝する日々

2023年はTM NETWORK結成40周年。こんなに長く続けられるなんて夢にも思っていなかったし、本当にありがたいです。
僕自身の目標ですか?
以前は「音楽、小説、役者を経験してきたので、集大成として演劇を作り上げたい」と言っていたんですよ。でも、還暦を過ぎた頃からは「先のことはわからない」と思うようになって。

演劇をやりたいという気持ちは今もあるんですが、まずは“今日を生きていることに感謝したい”な、と。“今”を楽しんでいれば、きっと素敵な未来につながる。この年齢になって、そう実感するようになりました。

取材・文/森朋之

この「読みもの」をシェアする